店舗運営は「センス」や「やる気」だけで成り立つものではありません。
売上が好調でも、いつの間にか赤字に転落していた…そんな話も珍しくありません。
なぜなら、経営には「数字」に基づく判断が不可欠だからです。
ですので、店舗マネージャーや店長として「絶対に知っておくべき5つの数字」を解説してみたいと思います。「数字が苦手…」という方にもわかりやすく、かつ実践的な内容で構成していますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 店長が売上だけを見ていませんか?「粗利益率」の重要性
店舗経営では「売上がいくらか」よりも「どれだけ利益が残るか」を意識しましょう。
粗利益率(=売上総利益率)は、商品の仕入れ値と販売価格のバランスを数値化したもので、これが健全な経営を支える基盤になります。
粗利益率とは何かを正確に把握する
粗利益率は「(売上-原価)÷売上」で算出されます。たとえば、月商100万円、原価が60万円の場合、粗利益は40万円、粗利益率は40%です。
この数値が高いほど、店舗は利益を確保しやすい構造だといえるでしょう。
理想的な粗利益率とは?
業種によって理想値は異なりますが、一般的な小売業(国内仕入れ)では30〜40%がひとつの目安になるでしょう。
2023 年経済産業省企業活動基本調査確報(2022 年度実績)によると、主要企業の数値は次の通りです。

売上原価 ( 19,106百万円 ) / 売上高 ( 26,640百万円 ) = 原価率 71% なので、100% – 71% = 29%が利益率の目安と言えそうです。
小売業の一企業当たりの売上高は前年度比13.7%増。営業利益は同8.5%増、経常利益は同6.2%増。経常利益の増加率を業種別にみると、織物・衣服・身の回り品小売業、自動車・自転車小売業、飲食料品小売業等が増加。
(同資料より)
もちろん単純比較はできません。
輸入仕入れをする企業であれば、もっと利益率水準が高い小売形態もあるでしょう。
いずれにしても、自店の粗利益率が業界平均より極端に低い場合は、仕入れや価格設定を見直す必要があるかもしれませんね。
「売れてるけど儲かってない」原因はここかも?
「売上は好調なのに利益が少ない」という場合、多くはこの粗利益率が低いことが原因です。売上数字に目を奪われがちですが、経営者やマネージャーは必ずこの数値を併せて見るクセをつけましょう。
2. 見落としがち?「固定費率」が店舗経営の命運を握る

毎月かかる「固定費」は、店舗の体力をじわじわと奪います。
家賃・人件費・水道光熱費などの固定費が売上に対してどれくらいを占めているのか、「固定費率」を見れば一目瞭然です。
固定費率の基本計算式
固定費率 =(固定費 ÷ 売上)× 100(%)
固定費率の求め方と、見落としやすいコストたち
固定費率とは、売上に対してどれだけ固定費が占めているかを示す指標です。店舗経営ではこの固定費率を抑えることが、黒字化への第一歩になります。
「どこまでが固定費なの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。ここでは、固定費率の計算式と、代表的な固定費の種類を具体的に解説します。
家賃・テナント賃料
もっとも代表的な固定費のひとつが、店舗やオフィスの賃料です。商業施設のテナントに入っている場合は共益費も含まれることが多く、立地が良い場所ほど比率が高くなる傾向にあります。売上が季節で変動する業態では特に、この固定費負担が重くのしかかります。
人件費(基本給・社会保険料)
従業員に対して毎月支払う基本給や、社会保険料などの法定福利費も固定費に分類されます。時給制アルバイトのシフト調整によって変動し得る部分もありますが、社員やフルタイムスタッフの給与は基本的に固定費として考えるのが妥当です。
店長の仕事の中でも、労働時間管理と効率的な配置は、最も重要な業務の一つですよね。
水道光熱費・通信費
電気・ガス・水道などの公共料金も固定費の一部にカウントされます。変動費とみなすこともありますが、毎月一定水準のコストが発生するため、最低限の固定費として把握しておくと管理しやすいです。また、POSレジやインターネットなどの通信費も、業務に必須のベースコストとなっています。
保険・リース料・サブスクリプション
業務用車両や厨房機器などのリース料、POSシステムやクラウドサービスなどのサブスクリプション利用料も、継続的にかかるコスト=固定費に該当します。特に最近は、サブスク契約の積み重ねでコストが膨らむケースも増えていますよ。
減価償却費(会計上の固定費)
建物や機械設備などの資産については、「減価償却」として数年にわたって費用を分配して計上します。これはキャッシュアウトがなくても帳簿上は固定費として扱われるため、注意が必要です。経理の視点でも理解しておきたいポイントですね。
固定費率が高くなりやすい店舗の特徴
立地が良すぎる(家賃が高い)、従業員数が多い、人件費の比率が大きいなどが挙げられます。もちろん投資が必要なフェーズもありますが、継続的に高コストがかかる構造は要注意ですよね。
店長の仕事としての「コスト意識」
現場の責任者である店長には、シフト調整や無駄な在庫発注を減らすなど、現場レベルでのコストコントロールが求められます。マネージャー視点で言えば、設備更新や業者選定の見直しなども有効です。
出店時に固定費を甘く見積もっていませんか?
実は、固定費の多くは「出店時点でほぼ決まっている」と言っても過言ではありません。
特に家賃・設備・人件費構成は、契約時やレイアウト決定時にある程度固定化されてしまうため、出店計画段階でどれだけ慎重に見積もれるかが、のちの収益構造に大きく影響してきます。
たとえば、繁華街の一等地に高額なテナントを借りると、月X00万円以上の家賃が発生します。
このコストに見合う売上・集客が得られるかどうかは、不確実な未来に依存しているわけですよね。
それに対して、商圏や競合、家賃対売上比率などを事前にしっかりシミュレーションできれば、損益分岐点の読み違いによる赤字リスクを大きく減らすことができます。
店長やマネージャーも「経営視点」での出店判断を
実際には、出店の意思決定は経営陣や本部の担当が行うケースが多いかもしれません。しかし、現場の店長やマネージャーが出店後のオペレーションコストや回収難易度を正しく理解していることは、開業後のマネジメントを成功させるために非常に重要です。
「なぜこの立地なのか」「この設備投資は何年で回収可能か」「最低売上がいくら必要か」といった思考を、普段から持つクセをつけておくと、いざ新規プロジェクトや異動の際にも大いに役立つと思いますよ。
3.店長、お客様は「どれだけ」来ていますか?「客数」と「客単価」の見える化

「売上が上がらない」と感じたら、分解してみましょう。
売上は
客数 × 客単価
で成り立っており、この二つを改善するアプローチが基本です。
客数の増減は何が原因?──「来ない理由」より「来たくなる理由」を考える
新規来店の減少か、リピーターの離脱か。例えば悪天候やSNSでのネガティブなレビューなど、外的要因もありますよね。一方で、スタッフの接客品質や店舗の清潔感など、内部要因も客数に大きく影響します。
ここでは、客数が減る原因とその対策を、3つの角度から掘り下げてみましょう。
店舗に「人が集まる」空間設計を工夫する
原因の例:
- 通りから店舗内が見えない・入りづらい
- 店内が暗い、通路が狭く滞留しにくい
- 見た目に変化がなく、飽きられている
対策:
- ガラス面を活かした“見せる陳列”で開放感を演出
- 季節ごとのディスプレイ変更で動きを出す
- 通りがかりの人にも視覚的に訴える「入口の演出」や「A看板の活用」も効果的です
たとえばアパレル店舗なら、外から見えるマネキンに新作を着せたり、POPでプロモーション情報を伝えるだけでも足を止めてもらえるきっかけになります。“何かやってる感”を出すだけでも集客力は変わってきますよ。
「用がなくても来たくなる理由」を仕込む
原因の例:
- 来店動機が「買うときだけ」に限定されている
- 滞在時間が短く、印象に残らない
- サービス提供が単一で“目的消費”に終始している
対策:
- カフェスペースや試着体験、試乗体験など非購入目的の導線を設ける
- LINEやSNSでの定期配信を通じて、日常的な接点づくり
- スタッフとの雑談・アドバイス提案など、接客を“情報提供”に昇華
「買わなくても見に行きたい」「店員と話すだけでも楽しい」――この心理が作れると、リピート客が自然と増えていく仕組みができます。
実際に、「最近あのスタッフさんいないの?」とお客様から聞かれるようになったら、かなり強い接点が作れている証拠です。
イベントを定期的に仕掛け、関心のハードルを下げる
原因の例:
- 通常営業だけで目新しさがない
- リピーターが飽きて離れてしまう
- SNS投稿のネタも尽きて拡散されにくい
対策:
- 月1回のテーマイベント(例:新作紹介会、体験ワークショップ、限定アイテム抽選会)
- LINE登録者限定クーポン配布や「来店スタンプ」で継続来店を促す
- コラボイベント(近隣の別業種と連携して集客)も効果大
イベントは、“来店のきっかけづくり”として最もわかりやすく即効性がある手法です。ただし、やりっぱなしにならないよう、イベント後のアンケート回収や、参加者に向けた再来店施策(DM・割引券)もセットで設計するとより効果的です。
客単価をどう上げる?
来店を促すことができたら、次は客単価をあげましょう。
セット販売・バンドル提案を取り入れる
具体例:
- ウェアを買うお客様に「同素材のグローブやアンダーウェアのセット割」を提案
- 飲食店なら、単品メニューに+〇〇円でドリンク or デザート付きにする
- 雨の日に傘と防水スプレーをセットで置くなど、“用途別の提案”
ポイント:お客様の購買目的を先回りして考え、「これも一緒にあると便利ですよ」という自然な流れを作るのがコツです。商品を“単品”ではなく“組み合わせ”で見せるだけでも、提案の幅は広がります。
陳列・導線で「視界に入る頻度」を増やす
具体例:
- レジ横に小物商品を配置して“ついで買い”を促進
- 試着室近くにケア用品を配置(例:ウェアのクリーナー、革手入れ用品)
- ポップやミニPOPで「店長おすすめ」など、目を引くサイン表示を設置
ポイント:海外の調査では、ほとんどの購入者(89%)が、衝動買いを経験したことがあるとされています。また54%は$100(15000円前後) 以上の出費もしているとか。(出典:Impulse Buying Statistics – 2025 CapitalOne Shopping Research)
VMDの話になりますが、“視界に入る”かどうかが購買に直結するということなんですね。
スタッフの“情報提案”で付加価値を感じてもらう
具体例:
- 商品の使い方・お手入れ方法・素材の違いなどを会話の中で伝える
- 「この商品はプロの〇〇さんも使っています」といった活用例紹介
- お客様の購入シーンを想定した提案
ポイント:お客様は“安いから”ではなく、“納得して”買いたいと思っていることが多いです。スタッフのひと言が、単なる商品を「選ぶ理由のある商品」に変えてくれるんですよ。
4. 再来店につながっていますか?「リピート率」が示す真の顧客満足
一度来たお客様をどれだけ再来店に結びつけられるか——それが「リピート率」です。この数値が高い店舗は、ファンが多い証拠であり、安定した経営が見込める店舗でもあります。
リピート率の計算には、業種や分析目的によってさまざまなバリエーションがあります。
店舗運営における実務に即した形で、代表的なリピート率の計算式と分類をわかりやすく解説します。これらは店長やマネージャーが数字管理を行う際に非常に役立つ視点でもありますよ。
リピート率の考え方と基本の計算式
リピート率とは、「一度利用した顧客のうち、再度来店・購買してくれた人の割合」を示す指標です。
リピート率 = 再来店客数 ÷ 初回来店客数 × 100(%)
** 客数ではなく購入数でも可
これは「ある期間に来店した総人数のうち、次の期間にどの程度来店したか」という考え方ですね。一方、「その月に来店した総人数のうち、リピーターが何人か」と考えるとまた違った計算になる事でしょう。
シーン別に見るリピート率の分類と計算方法
短期リピート率(翌月・翌週リピート)
翌月リピート率 = 翌月に2回目の来店をした客数 ÷ 当月来店客数 × 100
- 目的:直近の施策の効果測定(例:ポイントカードや割引券の有効性)
- 使用例:クーポン配布後の効果測定など
- 店舗戦略として「初回来店から1ヶ月以内に再来店させる仕掛け」は非常に有効です。
中期リピート率(3ヶ月以内/6ヶ月以内など)
3ヶ月以内のリピート率 = 初回来店から3ヶ月以内に2回目の来店があった客数 ÷ 初回来店客数 × 100
- 目的:サービスの中長期的な満足度評価
- 使用例:定期購買が想定される業態(例:美容室、ジム、歯科医院など)
- システム化されている場合、CRMデータから抽出しやすい指標ですが、「初回の来店から3ヶ月以内」のため、ユーザーごとに出力できる方法が必要です。システム内で「2回目の購入日 – 初回初回日 <= 90日以内」という数式が組み込めると便利です。
年間リピート率(長期定着)
年間リピート率 = 年内に2回以上来店した客数 ÷ 年内の総来店客数 × 100
- 目的:顧客基盤の厚さと定着度合いを測定
- 使用例:アパレル、趣味系商品、家具など購入頻度が低めの業態
- 年単位で長期間になる場合には、「総来店人数(または総購入者数)のうち、何人が2回以上の方か」というマクロな計算が良いと思います。年間の売り上げ計画の際に、来店人数の見通しが立つと、この数字も試算できるようになります。
累計リピート率(1年以上の経過後)
累計リピート率 = 一度以上再来店したことがある顧客数 ÷ 総来店客数 × 100
- 目的:ブランドや店舗への“愛着度”の評価
- 使用例:リニューアル判断や会員制施策の評価など、特に「全顧客のうち、リピートしてくれている人はどの程度か」を明確にしたいときに用いると良いでしょう。
「回数別」リピート率も有効です
来店回数に応じてリピート率を層別することで、より詳細な分析が可能になります。
来店回数 | 顧客数 | 構成比 |
---|---|---|
1回のみ | 500人 | 50% |
2回 | 200人 | 20% |
3回以上 | 300人 | 30% |
このような表を用いると、「2回目が一番の壁」といった傾向が見えることもありますよね。
店舗運営で重視すべきは「リピート率」と「来店間隔」のセット分析
単に「リピートしたか」だけでなく、「どれくらいの頻度で再来店しているか」(=来店間隔)もセットで分析すると、より実態に即した改善策を立てやすくなります。
たとえば:
- 30日以内に再来店 → 施策が好影響を与えている可能性
- 90日以上空いて再来店 → 定期性が弱く、外部要因による来店かも?
なぜリピートしてくれないのか?
商品に不満があったのか、スタッフの対応が冷たかったのか、それとも特に印象が残らなかったのか…。リピーターにならなかった理由を想像し、アンケートやヒアリングで確認する努力も必要ですよね。
5. 成長していますか?「前年同月比」が教えてくれる、店舗の現状と課題
「なんとなく忙しい」「最近よく売れてる気がする」――店舗運営ではつい感覚に頼ってしまうこともありますよね。でもその“手応え”が本当に成果につながっているかどうかを知るには、前年同月比(YoY: Year over Year)を見るのが最もシンプルかつ有効な方法です。
以下では、「前年同月比を見る際の具体的な数値」「よくある落とし穴」「店長・マネージャーが注目すべきポイント」を解説していきます
前年同月比の計算式と基本指標
前年同月比(%)=(当月の数値 ÷ 前年同月の数値)× 100
- 例1:売上が今年の5月=120万円、昨年の5月=100万円
⇒ 120 ÷ 100 × 100 = 120%(前年比+20%) - 例2:来客数が今年5月=950人、昨年5月=1,000人
⇒ 950 ÷ 1,000 × 100 = 95%(前年比-5%)
見るべき数字は「売上」だけじゃない
比較項目 | 意味・目的 | チェックポイント例 |
---|---|---|
売上 | 店舗全体の成長・失速を把握 | 前年より月商+10%なら優秀 |
客数 | 来店集客力の変化 | キャンペーン時や広告出稿後に注目 |
客単価 | 販売力・提案力の変化 | 客数が横ばいでも客単価が下がっていないか |
粗利益額 | 実質の稼ぐ力(売上-原価) | 売上アップしても利益が減ってないか? |
リピート客数 | ファンの定着力、満足度の指標 | 来店2回目以上の割合で比較 |
売上が上がっていても「客数が減っていて客単価でカバーしている状態」なのか、「ファンが増えている状態」なのかで、次のアクションは変わりますよね。
季節変動や外部要因も“見込み誤差”として意識する
前年同月比を見るときは、「比較する月にイレギュラーがなかったか」も確認しましょう。
- 昨年が特別セール月だった
- 昨年はGWが2回に分かれた(カレンダー変動)
- 昨年は新商品投入直後だった
こういった状況を無視して単純比較してしまうと、「下がった=悪い」「上がった=成功」と短絡的に判断してしまうリスクがあります。
結論、前年比105%を安定して超えられるかが“勝ちパターン”のキモ
感覚ではなく「数値」で経営判断をするためには、「前年比で安定して成長しているか?」を見るのが一番確実です。
前年同月比が105%以上 × 3ヶ月継続 = 成長モデルが機能している
この状態を安定して維持できていれば、商品・接客・販促が噛み合っているか、何か社会的なトレンドとして良い兆候であると考えて良いでしょう。
逆に、「前年比90-95%以下が数か月続く」といった状態は、何かがズレている兆候とも受け取れます。
とはいえこの % の数字は一例ですので、各会社の状態に合わせて「ひとつの成長していると定義できる基準値」を設けてみてはいかがでしょうか。
店長・マネージャーがやるべきアクション
- 毎月の売上・客数・客単価を前年と照らし合わせて記録
- 数値が下がっていたら、“どの項目が下がっているか”を分解分析
- 数値に現れない“変化の兆し”(スタッフの離職・客層の変化)も一緒に観察
単に数字を「見るだけ」ではなく、「なぜこうなったのか?」まで掘り下げるのが、数字に強いマネージャーの第一歩です。
前年比は、他店との比較ではなく「自店の過去との会話」です。うまくいっていたときの数字に戻せるか?それ以上を目指せるか?そうした改善と挑戦のサイクルを回し続けることで、店舗は“育っていく”のではないでしょうか。