「言い方ひとつで、スタッフの動きが変わる」。そう感じたことはありませんか?
現場でのマネジメントでは、指示の内容だけでなく、その“伝え方”がスタッフのモチベーションや行動に直結します。
特に店長やマネージャーの立場では、日々の言葉選びがチームの雰囲気や定着率、成果にまで影響を与えるのです。
この記事では、スタッフが自然と動きたくなる“声かけ”や“伝え方”の工夫について、心理学や調査データも交えながら解説します。「気持ちはあるけど、うまく伝えられない」「伝えたはずなのに、動いてくれない」と悩むマネジメント層の方にこそ、役立つ内容です。
「言ったはず」では動かない理由をご存じでしょうか?
現場では、「ちゃんと説明したのに伝わっていない」「言ったのに動いてくれない」と感じることがよくありますよね。
でも実は、スタッフが指示を理解していても“納得していない”“共感できていない”場合、その通りに動くとは限らないのです。
これは、「行動の動機づけ」は言語情報だけでは不十分であるという心理学の理論にも通じます。
これは、エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論(Self-Determination Theory)」に基づくもので、人は外部からの指示や命令ではなく、内側から湧き上がる“内発的動機づけ”によって最も力を発揮するとされています。
この理論では、人が意欲的に行動するために満たされるべき基本的欲求として、以下の3つが挙げられています:
- 自律性:自分の意思で行動できているという感覚
- 有能感:自分にはできるという自信、成長実感
- 関係性:周囲と良好な関係性が築けているという感覚
つまり、スタッフがやる気を持って動いてくれる状態をつくるには、これら3つを意識した言葉かけが有効なのです。
たとえば、
- 「どのやり方がやりやすい?」と自律性を尊重する声かけ
- 「ここまで一人でできたのすごいよ」と有能感を認めるフィードバック
- 「助けてくれて嬉しかったよ」と関係性を強める感謝の言葉
これらの表現は、単なる指示ではなく、スタッフの内側から“やってみよう”という気持ちを引き出す働きがあります。
指示ではなく「納得」を与える言葉へ
やるべきことを一方的に指示するのではなく、「なぜそれをやるのか」「どうやれば効果的か」という“背景”や“目的”を添えて伝えるだけで、スタッフの納得度は大きく変わります。
たとえば、
✕「この棚、直しておいて」
〇「この棚、目線に合っていないから、見やすく整えてもらえる?売上も少し変わってくると思う」
といった具合です。少しの違いで、印象も行動も変わってきますよね。
スタッフを動かす「ポジティブな言い換え」テクニック
否定から入ると、人は心を閉ざしやすい
「なんでできてないの?」「どうしてわからないの?」といった言葉は、相手を否定されたように感じさせ、思考停止を招きます。逆に、指摘する必要があるときこそ、言い方を変えるだけで相手の受け取り方は大きく違ってきます。
たとえば、
✕「まだ終わってないの?」 〇「あとどれくらいで終わりそう?」
✕「声が小さいよ」 〇「今の説明、すごく丁寧だった!もう少し声が通るとお客様にも伝わりやすいかもね」
このような“ポジティブな言い換え”は、本人の努力を尊重しながらも改善点を伝える方法として有効です。
「期待の言葉」は、行動を後押しする
「あなたにお願いしたい」「○○さんならきっとできると思ってる」といった“期待を込めた声かけ”は、スタッフの背中をそっと押す大きな力になるかもしれません。
1. 「任せる」という言葉は信頼の証
“任せる”という言葉は、スキルや経験よりもまず「あなたを信じている」というメッセージになりますよね。これは、自信のないスタッフにとって大きな励みになりますし、その人を見ています、というメッセージにもなります。
もちろんそこには、進捗を見守る店長・マネージャーの目は必要になるでしょう。そうでないと、丸投げされた、と誤解を生んでしまうことになります。
「あなたにお願いしたい」「任せます」と信頼することで、受けた側は責任感が生まれ、自由にやっていいんだという仕事のやりがいにつながると思います。
2. 「○○ならできる」は自己効力感を刺激する
パーソル総合研究所のコラム「若手社員の成長実感の重要性 ~若手の成長意欲を満たし、本人・企業双方の成長につなげるには~」(※)では、若手社員の成長実感理由TOP10が挙げられています。

ここで示されている1,2番目の理由に共通することは「任されている」点でしょう。
「○○さんならきっとやれると思う」「期待してるよ」といった一言が、相手の自己効力感を育て、行動の前向きな動機につながるのです。
実例で学ぶ|場面別“言い換え”表現集

注意を促すとき:叱責よりも共感と提案を
✕「何回言えばわかるの?」
〇「忙しい中、よくやってくれてるのはわかってる。ただ、ここだけは注意してほしいんだ」
✕「これ違うよ」
〇「惜しいね!ここをこう直せば、もっと良くなると思うよ」
モチベーションを高めたいとき:評価は“具体的”に
✕「いいね、それ」
〇「今の提案、○○を考慮してくれてたのがすごくよかったよ」
✕「さすがだね」
〇「さすがだね。特にこの部分、どうやって思いついたの?」
具体的なフィードバックは、「ちゃんと見てもらえている」という実感につながり、やる気を高めます。
苦手意識を取り除くとき:段階的な言葉で安心感を
✕「やればできるでしょ?」
〇「最初は不安でも当然だよ。一緒に少しずつやっていこう」
✕「もう一回やって」
〇「今のところ、惜しかったね。コツは○○なんだ。もう一回だけ一緒にやってみようか」
このようなステップ設計のある声かけは、スタッフが「失敗しても大丈夫」と感じられる安心材料になります。
言葉がチーム文化をつくるという視点
店長の言葉が“現場の空気”をつくる
「いつもありがとう」「○○さんいいね」 そんな一言があるだけで、スタッフの表情も、店舗の雰囲気も変わってくるものです。
実際、現場でよく見られるのは、店長の口癖や発言が“そのままチームの空気”になるという現象です。
たとえば、「失敗してもいいよ、まずはやってみよう」というスタンスを持つ店長のチームは、スタッフが前向きにチャレンジしやすくなります。
また「ありがとう」が自然に飛び交うチームでは、お互いを尊重し合う風土が育ち、クレームやトラブル時にもフォローし合える強い関係性が生まれやすくなります。
逆に、店長の発言が常にネガティブだったり、感謝の言葉がない職場では、スタッフが委縮し、最低限の業務に留まってしまう傾向も見受けられます。
つまり、店長の言葉は「店舗の空気を整える装置」のようなものであり、組織文化やチーム力そのものに作用しているのです。
そのため、たとえば次のような言葉を日常的に意識して取り入れてみるだけで、現場の雰囲気は少しずつ変わっていきます:
- 「助かったよ、ありがとう」
- 「そのやり方、よく考えてるね」
- 「今の対応、すごくよかったよ」
- 「困ったことがあれば、いつでも相談してね」
こうした言葉はスタッフに安心感を与え、「ここで働き続けたい」という気持ちを支える土台になります。
何気ない一言の積み重ねが、結果的に離職率の低下や売上の安定につながることも珍しくありません。を育て、スタッフの定着やモチベーションに直結しているのです。
言葉は“技術”である

誰もが最初から上手に伝えられるわけではありません。
しかし結論として、伝え方は、学びと意識で磨ける“技術”であると言えます。店長やマネージャーは“言葉を選ぶ力”を持つことで、人を育て、チームを動かすリーダーシップを発揮できるようになります。
今日の一言が、誰かの背中を押すきっかけになるかもしれません。ぜひ明日から、あなたの言葉を見直してみてください。