前提を抑えておきましょう
店長 = マネージャー、と言えばその店のトップであり責任者ですが、それ故、求められる役割は多種多様です。
スキルを持った店長は、店舗に利益を持たらし、また多くの顧客を満足させることができます。また、利益をもたらし、顧客を満足させることができる”部下=チームメンバー”を数多く輩出することができます。
一方で、スキルが無い店長のチームメンバーは、成長に蓋をしてしまう結果となり、企業にとっても顧客にとっても良くない結果となるでしょう。
ここでは、自身が従業員として働いている立場のケースを例に、どのような仕事と役割が考えられるのか、一つずつ見ていきましょう。
なお注意点として、店長に求める役割は企業によっても異なります。ここで記載する内容は一例にすぎません。しかしながら「店長に昇格した」「店長としてどうふるまってよいのかわからない」といった悩みのヒントになるはずです。
なお読者自身が経営する店舗について考えたい場合、まさに自分が全てのトップになりますので「上司や企業が求めているもの」等の項目はあてはまりませんが、メンバーの考え方を育成するという視点から読むことで、何かヒントがあるかもしれません。
仕事ができる店長とは
「あの店長は仕事ができる」「仕事ができない」の基準はどのようなものでしょうか。売上が取れていればいいのでしょうか。または、メンバーとのコミュニケーションが取れていればいいのでしょうか。
数字に強い
売上・利益・販売管理費・営業利益の全体を管理できる事です。どの項目を増やす(または減らす)必要があるのかを考え、必要な施策を打ち出します。
店長がアクセスできる情報に制限ががる場合、例えば営業利益は非公開であるなど、その際にはもちろん把握できる限りの情報から、数字を組み立てます。
最もわかりやすい”売上”をつくる構成要素は、およそ下記の通りでしょう。
売上件数 x 平均客単価 = 売上
「売上件数」は「来客数 x 成約率」とも考えられます。
「平均客単価」は「購入商品の平均価格 x 購入商品の平均点数」に分解できるでしょう。
さらに「来店客数」は「認知→来店行動」に至った人数なので、「マーケット内で認知されている潜在顧客数 x 来店率」に影響されることになります。
売上の次、さらに数字を管理するには
仕事ができる店長であれば、売上を出す以上に、そこから生まれる売上利益(粗利益)にも気を配りたいところです。
売上 x 粗利率 = 粗利益(売上利益)
当然、一口で売上と言っても、セールを積極的に行って目標を達成した売上と、多くをフルプライスで販売したことによって生まれる利益では、最後に残る利益に大きな差が生じます。店長は、どの商品が粗利率が高いものなのか、を把握し、セールによる安売りを行った際には、クロスセル(合わせ買い)商品として高粗利なものの販売を行うなど、粗利益を確保するための行動も大切になります。
このように、売上目標を個々の要素に分解し、ボトルネックとなっている部分を探し、仮説を立てて実行することが求められます。
期待されている売上を達成することができる
店舗には、賃料・光熱費・人件費・減価償却・雑費(備品など)・教育費などの細かい販売管理費が存在します。それらを支払ったうえで十分な利益を出すために売上目標が設定されます。
前項の「数字に強い」とつながる点も多いですが、必要な売上を立てること。これは最も求められる責任の一つと言えるでしょう。
売上を達成できないということは、十分な利益の確保ができていないという事であり、つまりそこに所属する自身およびメンバーの待遇・福利厚生の原資が確保できないという原理原則から目を背けてはいけません。
メンバーを成長させることができる
店長が常に接客を行い、トップセールスとして売上を作る状態は、必ずしも良いとは限りません。もちろん売上を立てることは最優先事項であるため、メンバーによる売り上げが立てられない場合(教育が不十分である、など)は、店長自ら立てる必要があります。
ただ本来目指す姿は、目標を達成できないメンバーを、達成できるメンバーに成長させ、店舗の目標を達成することです。
その結果、成長したメンバーが次の責任ある立場を担うことができ、自分自身は次のステップへ進める可能性と、ひいては所属する店舗、企業全体の成長につながっていきます。
メンバーに責任感をもたせることができる
メンバーの仕事に口を出すこと、これは決して良い店長とは言えないでしょう。店長は上司(上に位置する者)であり、階段を下るように、メンバーの位置まで降りて気を使い始めることは危険サインと言えるかもしれません。
メンバーの責任範囲に対し「大丈夫か」「進捗はどうか」など、都度配慮することはあまりおすすめできません。メンバーの仕事や判断に対して極端に介入してしまうと「店長の言われた通りに仕事をした」という発想になり、100%自分の責任ある仕事だと感じることができなくなるリスクを伴います。
成功したとしても「店長の言ったことをやった」となりますし、失敗したとしても「店長の言ったことをやった」となります。
初期段階の新人を除き、一定程度経験を積んだメンバーであれば、メンバーの責任を明確にし、また自ら店長に相談してくるような仕組みをつくる、これらが店長の責任であるとも言えるでしょう。
事前になにを求められているのかを明確に
このように主に4つの例を挙げましたが、最も大切なことは、事前になにを求められているのかを明確に確認しておくことをおすすめします。
自分が店長として重要だと考える点と、上司や企業が店長に対して求めているものがずれていると、いくら努力をしても評価されづらい事でしょう。
店長になるための素質とは
素質 = 生まれつき持っていて、性格や能力などのもとになるもの、と定義されますが、ここではあまり気にする必要はないかもしれません。リーダーシップがある、コミュニケーション能力がある、といった素質の有無は、優秀な店長かどうかにさほど影響しないと考えられるからです。
ここで挙げる例は一部ですが、自分の素質には無いと感じた場合は、無いことを認識した上で注意深くなれば良いだけであり、あとは経験で補えばよい事ばかりでしょう。
細かいところに気が配れる
細かいところに気がつく、というのは店舗を管理する中で大切なポイントです。ここまで記載した、売上や販売管理費のほか、例えば「メンバーの変化」「店内のクリンネスの維持」「現金管理」から、「備品の不足」「ショーウィンドウの展示、レイアウト」など細部への配慮が、店舗全体の秩序と清潔感の維持につながることでしょう。
上司または会社の方針を理解し、代弁することができる
店長とはその店舗のトップであり、良くも悪くも、メンバーたちは店長の行動と言動に左右されます。店長がその上司や会社の方針と、異なる行動を取っている場合、そのメンバーたちもみな、異なる行動を取ってしまうリスクが生まれます。
一方で、店長が上司や会社の方針を理解し、正しくメンバーたちに伝達することができれば、”一本筋が取った”会社の体制をつくりあげることができるでしょう。
エリアマネージャーと言った店長の上のレイヤーの従業員は「会社が向いている方向」と「店長が向いている方向」が同じかどうか、常に考える必要があります。
嫌われることを気にしない
店長は時に、個人としては言いたくないことでも、その役割ゆえに、言わなければいけない時もあるでしょう。店舗全体の利益を考えて行動することが大切であり、嫌われるとわかっていても注意・教育・指示などをしなければなりません。
決して気持ちの良い仕事ではないですが、このような場合に「嫌われるのではないか」「店舗の空気が悪くなるのではないか」という感情が勝ってしまい実行できないようでは、強固なチームを作ることは難しいと考えておきましょう。
人を成長させることに興味がある
1つ目のトピック内「メンバーを成長させることができる」で解説した内容に通じますが、人(ここでは主に、店長が責任をもって管理するメンバー)を成長させることを考えることが大切です。
店長一人でできる業務には限界があり、一人で立てられる売上にも限界があるでしょう。そのようなとき、メンバーが同じ仕事ができるように成長してくれたらどうでしょうか。
メンバーのキャリアを預かっている立場ですから、成長を提供する責任もまた考えるべき要素の1つと言えます。
店長の役割。抑えておくべきポイント
仕事ができる店長のポイント、店長になるための素質、この2点についてみてきましたが、次は実際に店長に就任した際の主な役割について記載していきましょう。
役割1.売上
売上を立てること、は店長の役割です。
必ずしも店長自らトップセールスとして売上を立てる必要はありません。大切なのは、売上を立てられるチーム構成をすることです。
役割2.店内管理
店舗の中が正しい状態になっているか、日々目を光らせることです。VMDは魅力的か、整理整頓・掃除は行き届いているか、顧客にとって見やすく快適な空間になっているか。
役割3.教育
メンバーを教育する事も店長の役割です。「役割1. 売上を立てる」の基礎となるのは教育と成長です。
役割4.人事(面接 / 採用)
そのメンバーを面接し、採用の判断をすることです。企業の組織によって担当部署が異なる場合もありますが、中小規模の店舗ほど、店長が面接や採用活動を行っているところが多いでしょう。
厳しい言い方をすれば「役割3. 教育、に足る意欲と実績をもった候補者を面接し、判断し、採用する」ことです。
現代の20代社員が求めているもの
ここまで多くの章で教育や成長について触れてきましたが、一方で20代の社員が求めているものをデータから読み解きましょう。
引用する調査は 働く10,000人の就業・成長定点調査2022 (パーソル総合研究所) です。
この調査によると仕事に”成長やスキルアップ”を求める割合が微増していることがわかります。
一方ポイントが減少傾向にある項目に、少し前には、最も重要視されていたような「休み」「人間関係」「ワークライフバランス」などが入っています。
20代前半正社員の仕事選びの重視点は、休みの取りやすさ、人間関係、収入などが減少する一方で、社会貢献や、知識・スキルが得られるといった「自己成長」に関する項目が上昇傾向。今後のキャリア形成を考えて、自身を成長させてくれる会社を選びたいという意向が強まっていることがうかがえる。また、SDGs 世代として社会貢献意識の高まりも見える。
出典 : 働く10,000人の就業・成長定点調査 – パーソル総合研究所
隠れブラック、ゆるブラックの存在
新R25 の特集記事 【隠れブラック企業】を見分ける5つの方法「①仕事に思考停止が求められる」…ほか4つは? に詳しく記載がされていますが、単なる過剰労働ではなく、ホワイト企業による「若い世代に何も判断させない、仕事を最小限しかやらせない」「言われたことをやらせるだけ」といった、成長機会の損失を、ブラックと定義する風潮もあることは念頭に置くべきでしょう。
現代の上司、会社が求めているもの
それでは最後に、逆方向で現代の上司、会社が求めているものは何でしょうか。
売上(セールス)を作る、という点が最上位に位置することは容易に想像がつきますが、そのような代表的なものを除いて考えると、いかがでしょうか。答えはおおむね、次のような事でしょう。
店舗に人を集めるマーケティングスキル
オンラインストアでなんでも購入できる現代において、店舗に足を運ぶための理由付けを考えられることです。デジタルではなく、フィジカルな顧客とのタッチポイントをどれだけ多く作れるか。
店舗が主催するイベントや、顧客とチームメンバーとの交流など、単なるセールスプロモーションを超えて、顧客に店舗独自の体験を提供できることが重視されます。
チームビルディング
優れたチームは、優れた結果を生みます。優れたチームにするためには、そのメンバーの教育と成長が不可欠です。
そこでは、メンバーに対して過剰に介入せず、メンバー自身の責任で行動させられる仕組みを作り、またその結果を何で評価しているかを明確にし、正しく評価してあげられること。行き詰った時にメンバーから相談を受けやすい環境をつくり、解決に導いてあげられること。
これら2つに、最初に記載した「売上を作る」を含めた3つの要素を、どのような会社も求めているのではないでしょうか。
まとめ
このように店長の役割、求められるものは様々ありますが、いまこの記事を読んでいる方の中には「自分にはこれが足りていない」と気づきのあるかたや「他にもこの要素は不可欠だ」など、意見も多様に出てくることでしょう。
最初に書いたようにここでは、自身が従業員として働いている立場のケースを例に、どのような仕事と役割が考えられるのかを見てきました。
管理職として自分が何を組織 = 会社やグループ、から求められているのかを正しく認識しなければ、間違った努力で終わってしまいます。
まずは求められている役割を認識し、そのために必要な事を自分のケースにあてはめて再考することが第一歩になるでしょう。